実証と事例

沖縄県の学校給食 EDI 実証レポート。受注入力 65%削減の中身

公開: / 著者: 島村祐介

Quick Link EDI は、2025 年 8 月から 2026 年 2 月まで、公益財団法人沖縄県学校給食会と株式会社マルキン海産の 2 社と、FAX 受注をデジタル化する実証を行いました。結果は、受注入力時間 65%削減、デジタル化移行率 83.3%(66 取引のうち 55 件)、従業員満足度 4.0/5.0 で、事前に決めた 4 つの目標をすべて達成しました。発注側(給食センター)のやり方は変えず、受注側の作業だけを変えて出た数字です。この記事では、数値を何をどう測ったかとあわせて説明し、前年度に EDI 化を試みて分かった「EDI 化より先に、商品マスタだった」という教訓をまとめます。

実証の概要

項目内容
期間2025 年 8 月 27 日〜2026 年 2 月 28 日
実証先(受注企業)公益財団法人沖縄県学校給食会(学校給食用食材の供給)/株式会社マルキン海産(食品卸売業・食品製造業)
対象業務FAX で届く注文書の受注入力(読み取り・商品の判別・業務アプリへの取り込み)
主な方式AI 受注(受注側だけで導入できる方式)
事業沖縄県「ICT ビジネス高度化支援事業」の補助事業(2024 年度・2025 年度の 2 年連続採択)

実証前の受注現場

学校給食の受発注は、いまも FAX が主流です。県内各地の給食センターが、複数の受注企業(食材卸各社)へ FAX で注文書を送り、受注企業はそれを業務アプリ(基幹システム)へ手で入力します。沖縄県学校給食会では、手入力する受注データが月 5,000 件、手入力に起因する受注ミスが月 100 件ありました。しかも注文は 1 週間に集中します。

入力の現場では、左手で注文書を押さえながら右手で入力し、画面の横には商品コードの一覧表を置いて、分からない商品は手を止めて調べていました。

本当の壁は、入力の手間よりも「商品の判別」です。

  • FAX の注文書に「花かつお(ティーパック)500g」と書いてあっても、実際に出荷する商品は「削り節 500g T/P」。同じ商品だと分かるのは、長年その取引先を担当してきた人だけです
  • マルキン海産の取扱アイテムは約 5,000 あります。注文書に「もずく」とだけあっても、種別は洗い・塩・味付けなど数種類、規格は 40g から 10kg まで分かれています。古い商品名のまま届く注文書も少なくありません

どの商品を指すかの判断は、受注担当者の長年の勘に頼る属人業務になっていました。商品の取り違えは、給食の提供に直接響きます。

注文書の品名と出荷する商品の対応の例。例 1 は注文書の「花かつお(ティーパック)500g」が実際には「削り節 500g T/P」を指す。例 2 は注文書の「もずく」に対して、種別が洗い・塩・味付けなど、規格が 40g から 10kg まであり、どれを指すか分からない
図 1: 注文書の品名から出荷する商品を判別する

前年度は、まず EDI 化に挑んだ

実は、この実証は 2 年目です。2024 年度は、国が推進する「中小企業共通 EDI」に準拠したサービスで、発注側と受注側をデータで直結する王道の EDI 化に取り組みました。受注 1 件あたりの入力時間は 32 分 21 秒から 4 分 8 秒へ、87.2% 減りました。

ところが、「EDI による受注率 90% 以上」という目標には届かず、FAX から EDI への完全移行には至りませんでした。原因は 2 つあります。

  • 商品コードが統一できない: 発注側と受注側で同じ商品コードを使えないため、結局は人が判断して入力するしかない
  • 商品マスタが無秩序: 登録ルールが統一されていない、商品が重複している、古い商品名が残っている、拠点ごとにばらばら

そのまま基幹システムへ取り込める精度の注文データが作れなかったのです。EDI 化より先に、商品マスタだった。これが 1 年目の教訓でした。

そこで 2025 年度は、商品マスタが整うのを待つのをやめ、商品の判別そのものを AI に肩代わりさせる「AI 受注」で実証しました。受注企業が FAX の注文書を PDF にしてアップロードすると、AI が読み取ってデータ化し、商品コードを付けます。担当者は結果を確認して、CSV で業務アプリに取り込みます。発注側は、いままでどおり FAX を送るだけです。

2 年間の実証の流れ。2024 年度は中小企業共通 EDI で受発注をデータで直結し、受注 1 件あたりの入力は 32 分 21 秒から 4 分 8 秒になったが、EDI による受注率 90% 以上の目標は未達。2025 年度は AI 受注で商品の判別を AI に任せ、4 つの目標をすべて達成した。1 年目の教訓は、EDI 化より先に商品マスタだったこと
図 2: 1 年目の未達が、2 年目の打ち手を決めた
AI 受注の 5 ステップ。STEP 1 商品カタログを登録(初回のみ)、STEP 2 注文書を PDF でアップロード、STEP 3 AI が読み取ってデータ化(文字の読み取り精度 約 98%)、STEP 4 AI が商品コードを付与(約 8 割が第 1 候補で正解)、STEP 5 人が確認して CSV で業務アプリへ取り込む。発注側はいままでどおり FAX を送るだけ
図 3: AI 受注の流れ

結果: 4 つの目標をすべて達成

目標は、実証の開始前に実証先と合意して決めました。数値は 2 社の平均・合算です。

指標目標結果
受注入力の作業時間1/2 以下65%削減(月平均 約 33 時間 → 約 11.5 時間)
デジタル化移行率2/3 以上83.3%(対象 66 取引のうち 55 件が移行)
従業員満足度5 段階中 4 以上平均 4.0 点(受注業務担当者へのアンケート)
費用対効果5 年で 100 万円以上平均 184 万円(5 年間の利用を想定した試算)

受注入力時間 65%削減

受注業務に立ち会って入力時間を実測し、導入前後の月平均の作業時間を比べました。2 社の平均で、月約 33 時間かかっていた受注入力が約 11.5 時間になりました。

時間が減ったのは、注文書の読み取りと商品の判別を AI が先に済ませるようになったためです。文字の読み取り精度は約 98%、商品の判別は約 8 割が第 1 候補で正解でした。担当者は候補を確認して確定するだけで済みます。

残りの約 2 割は、担当者が候補から選び直します。Quick Link EDI は取引先ごとの過去の注文履歴を学習して判別の精度を上げるので、一度選んだ読み替えは次から提案されます。担当者の頭の中にあった判別の知識が、使うほどシステムに貯まっていきます。

デジタル化移行率 83.3%

実証の対象とした 66 の取引のうち、55 件が Quick Link EDI を使った受注に移りました。

8 割以上を移せたのは、AI 受注が発注側に何も頼まずに始められる方式だったからです。取引先はシステムを入れる必要も、操作を覚える必要もありません。発注元が給食センターや学校に分かれている給食の受発注では、受注側から取引のやり方を変えてもらうのは簡単ではありません。受注側だけで始められることが、移行の速さにつながりました。

従業員満足度 4.0/5.0

受注業務の担当者に 5 段階で満足度を聞いたアンケートの平均です。現場からは次の声をいただきました。

商品コードを調べる手間が削減できた。CSV 出力が可能なため他システムとの連動もスムーズで、とても満足している。(受注業務担当者)

誤ってアレルギー商品を納品することが、なくなる。(受注責任者)

効果は作業時間の削減だけではありませんでした。商品の取り違えを防ぐことは、子どもたちの食の安全に直結します。

5 年間で平均 184 万円の削減効果(試算)

Quick Link EDI を 5 年間使った場合の費用対効果を、次の式で試算しました。

(年間の削減時間 × 平均賃金 1,888 円/時 × 5 年)−(初期費用 30 万円 + 利用料 6 万円/年 × 5 年)

平均賃金は、沖縄県の毎月勤労統計調査地方調査結果(令和 7 年 11 月分)によります。184 万円は 2 社の平均です。実測ではなく試算なので、実際の効果は取引先の数、注文書の枚数、受注担当者の人数によって変わります。

実証から分かったこと

1. EDI 化より先に、商品マスタ

1 年目の EDI 化が目標に届かなかったのは、システムの問題ではなく、発注側と受注側の商品マスタがそろっていなかったからです。商品マスタが整っていないまま EDI でつないでも、人の判断が残ります。2 年目は、その判断を AI に任せることで成果が出ました。

2. 発注側を変えなくても、受注側だけで始められる

移行率 83.3% は、取引先に何も頼まずに出た数字です。FAX ゼロ化を、発注側の準備を待たずに受注側から始められます。

3. 残る課題は、発注側との商品マスタの連携

AI 受注で、商品コードの確認と読み替えの負担は軽くなり、CSV 出力で他システムとの連携もスムーズになりました。一方で、発注側の商品マスタは未整備のままで、マスタを連携する仕組みとプロセスもまだありません。

短期的には、AI 受注の対象とする取引先を広げ、導入効果を大きくします。中長期的には、発注側との商品マスタ連携の仕組みをつくり、発注側にも最新の食材情報に基づく献立作成や栄養価計算の精度向上といったメリットを示して、CSV 発注への移行を働きかけます。ここまで来て、ようやく EDI が本来の力を発揮します。

段階的なデジタル化の 3 ステップ。STEP 1 の AI 受注と STEP 2 の商品マスタ整備では発注側は FAX のまま、STEP 3 の本格 EDI 化で対応できる取引先からデジタル発注に移る。受注側の作業は段階ごとに減る
図 4: 実証で確かめたのは STEP 1。STEP 3 に進むには商品マスタの連携が要る

AI 受注で今の作業を減らし、商品マスタを整え、準備ができた取引先から本格 EDI 化へ進む。2 年間の実証は、この段階的 EDI 化の順番が現場に合っていることを確かめるものでした。

Quick Link EDI は、学校給食の受発注に特化したクラウド EDI サービスです。実証で使った AI 受注の仕組みを、全国の納入業者にお使いいただけます。FAX 注文書を AI が自動で読み取り、商品マスタと照合して、基幹システム取込用の CSV を生成します。取引先ごとの注文履歴を学習するので、読み替えの多い取引先ほど効果が出ます。

受注企業は受注明細 300 件/月まで無料で使えます。発注企業は無料です。導入サポート(初回のみ・任意)では、IT コーディネータ/中小企業共通 EDI 推進サポータの有資格者が、申し込みから運用の立ち上げまで伴走します。詳しくは給食業界での活用・製品概要・利用料金をご覧ください。

出典

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