注文書 AI-OCR の精度と限界。給食の受注で最後は人が確定する理由
注文書 AI-OCR の精度は、「文字を読む精度」と「どの商品かを当てる精度」の 2 つに分けて考える必要があります。Quick Link EDI が沖縄県の学校給食の納入業者と行った実証では、文字の読み取り精度は約 98%、商品の判別は約 8 割が第 1 候補で正解でした。商品の判別が 100%にならないのは、AI の性能不足だけが理由ではありません。注文書に答えが書かれていないことがあるからです。学校給食では、商品の取り違えがアレルギー事故につながります。だから、AI が候補を出し、人が原本と見比べて確定する設計が合っています。この記事では、2 つの精度の違い、商品の判別が 100%にならない理由、人が確定する作業を軽くする考え方を説明します。
給食の注文書が AI にとって難しい理由
学校給食の物資の注文は、いまも FAX が中心です。給食卸の 3 団体は 2024 年に国会議員と文部科学・農林水産・総務の三省へ意見書を出し、FAX で食材を発注し紙でやりとりする慣習と、自治体ごとに見積書・納品書・請求書の様式が違うことを課題に挙げています(詳しくは学校給食の受発注はなぜ FAX のままなのか)。
AI-OCR から見ると、給食の注文書には読み取りにくい条件が重なっています。
- 様式が発注元の数だけある: 注文書の書式は、学校給食会・教育委員会・各学校や給食センターといった発注元が決めます。受注側から見ると、取引先ごとに表の組み方も項目の並びも違います。数量の列が複数並ぶ注文書もあります
- FAX で画質が落ちる: 紙を FAX で送ると、細い文字がつぶれたり、かすれたりします。手書きの追記や訂正が入ることもあります
- 品名は献立の呼び方で書かれる: 注文書の品名は、献立を立てる栄養教諭や給食センターの呼び方です。納入業者の商品名ではありません
最初の 2 つは「文字を正しく読めるか」の問題、最後の 1 つは「読めた文字がどの商品か」の問題です。この 2 つは、同じ「精度」という言葉で語られがちですが、性質がまったく違います。
AI-OCR の精度は 2 つある
注文書の 1 行に「もずく 10」と書かれていたとします。
1 つ目は文字の読み取り精度です。「もずく」「10」と読めれば正解で、答えは注文書の中にあります。実証では約 98%でした。
2 つ目は商品の判別精度です。「もずく」が自社のどの商品を指すかを当てます。もずくには洗い・塩・味付けといった種別があり、規格も 40g から 10kg まで分かれています。注文書の文字をすべて正しく読めても、それだけではどの商品かは決まりません。答えは注文書の外、つまり取引先ごとの呼び方、自社の商品の一覧、過去の注文の中にあります。実証では、AI が出した候補の第 1 位が正解だったのが約 8 割でした。

AI-OCR の製品や事例で「精度 ○○%」と書かれていたら、どちらの精度かを確かめることが大切です。受注の業務で効いてくるのは、2 つ目の商品の判別です。文字が読めても、商品コードが付かなければ基幹システムには取り込めません。
商品の判別が 100%にならない 3 つの理由
商品の判別を誤る原因は、大きく 3 つに分けられます。どれも、AI の性能を上げるだけでは解決しません。
1. 注文書に書かれていない情報がある
「もずく」の例のように、種別や規格が省略された注文書は珍しくありません。発注側にとっては「いつものもずく」で通じるからです。注文書に書かれていない情報を、AI が注文書だけから当てることはできません。手がかりになるのは、その取引先がこれまで何を注文してきたかです。
2. 取引先ごとに呼び名が違う
注文書に「花かつお(ティーパック)500g」と書いてあっても、実際に出荷する商品は「削り節 500g T/P」です。どちらも正しく読めていますが、文字としてはほとんど一致しません。この対応を知っているのは、長年その取引先を担当してきた人だけでした。しかも、同じ品名でも取引先によって指す商品が違うことがあります。
3. 古い商品名のまま届く
改称や廃番の前の商品名で注文書が届くことがあります。自社の商品の一覧には、もうその名前がありません。後継の商品が何かは、自社の商品の履歴を知っている人にしか分かりません。
この 3 つは、商品マスタ整備のすすめ方で説明した品名のゆれの型 1〜3 と同じものです。表記の違い(全角と半角、単位の書き方など)は機械で吸収できますが、この 3 つは取引先ごとの知識が要ります。知識が増えれば判別は当たるようになりますが、新しい取引先や新しい商品は必ず出てくるので、100%にはなりません。
給食の受注を全自動にしない理由
判別が 8 割当たるなら、残りの 2 割だけ人が見ればよい、という考え方もあります。ただし、どの 2 割が外れているかは、事前には分かりません。AI が自信を持って選んだ候補が外れていることもあります。
そして、給食の受注では外れたときの代償が大きくなります。実証先の受注責任者からは、次の声をいただきました。
誤ってアレルギー商品を納品することが、なくなる。(受注責任者)
商品の取り違えは、子どもたちの食の安全に直結します。給食の提供日に間に合わせる必要があり、届いてから交換すればよいという取引でもありません。だから、AI の結果をそのまま基幹システムに流すのではなく、人が原本の注文書と見比べて 1 行ずつ確定する工程を残します。ここを省くと、作業時間は減っても、取り違えの責任をだれも負えなくなります。
人が確定する作業を軽くする設計
人が確定するといっても、全部を最初から調べ直すのでは、AI を使う意味がありません。大切なのは、AI が判断の材料をそろえておき、人は判断だけをする分担です。

確定の作業を軽くするには、次の 5 つの考え方が効きます。
- 候補を一致度の高い順に並べる: 正解が第 1 候補でなくても、第 2・第 3 候補にあれば、検索し直さずに選べます
- 最有力の候補を先に選んでおく: 合っていれば確認するだけで済みます。実証の数字でいえば、約 8 割の行は確かめるだけで済みます
- 原本と並べて見せる: 読み取り結果だけを見ていると、読み違いに気づけません。元の注文書を横に置いて見比べられることが、確かさの前提です
- 同じ品目はまとめて直す: 1 枚の注文書に同じ品名が何度も出てくるときは、1 か所の選び直しを残りにも反映できると手間が減ります
- 確定した結果を、取引先ごとに覚える: 人が選び直した読み替えを次の注文書で候補として出せれば、同じ判断を二度しなくて済みます。給食の注文は献立の周期で同じ品名が繰り返し届くので、覚えた分はすぐ効きます
5 つ目が特に重要です。人の確定は、AI の誤りを直す後始末ではありません。担当者の頭の中にあった判別の知識を、システムに移す作業です。確定を重ねるほど、ベテランでなくても同じ判断ができるようになります。
AI-OCR を選ぶときに確かめる 4 点
注文書の AI-OCR を検討するときは、次の 4 点を確かめると、導入後の手間を見積もりやすくなります。
| 確かめること | 理由 |
|---|---|
| 示されている精度は、文字の読み取りか、商品の判別か | 受注の手間を左右するのは商品の判別。文字の精度だけでは判断できない |
| 確定した読み替えを、取引先ごとに覚えるか | 覚えなければ、同じ品名を毎回選び直すことになる |
| 確認画面で原本と並べて見られるか。どの行を確認したか分かるか | 見比べられないと読み違いに気づけない。確認漏れも防げない |
| 確定したデータを、自社の基幹システムに取り込める形で出せるか | 取り込めなければ、結局手で入力し直すことになる |
Quick Link EDI ではどう解決するか
Quick Link EDI の AI 受注は、ここまでの「AI が候補を出し、人が確定する」分担をそのまま形にしています。
- 取引先を指定してアップロードする: FAX で届いた注文書を PDF でアップロードするときに取引先を指定します。指定した取引先の過去の注文をもとに、商品の判別の精度が上がります(注文書PDFをアップロードする)
- 原本と並べて確認する: 確認画面は、左に元の注文書 PDF、右に読み取り結果が並びます。確認済みにした件数は「レビュー進捗」に表示され、商品が決まっていない明細は確認済みにできません(AI読み取り結果を確認・修正する)
- 候補から選んで確定する: 品目ごとに商品の候補が一致度の高い順に並び、最有力の候補があらかじめ選ばれています。候補に無い商品は検索して選べ、同じ品目名の明細はまとめて変更できます。確定した読み替えは、次の注文書から候補として提案されます(商品マッチング候補を確定する)
- 基幹システムへ取り込む: 確定した受注データは CSV で出力し、基幹システムに取り込めます
沖縄県の実証では、AI が読み取りと商品の判別を先に済ませ、担当者が候補を確認して確定する流れで、受注入力の作業時間が 65%削減されました(詳しくは沖縄県の学校給食 EDI 実証レポート)。受注企業は受注明細 300 件/月まで無料で使えます。詳しくは製品概要・利用料金をご覧ください。
出典
- 文字の読み取り精度・商品の判別精度・受注入力時間の削減と受注責任者の声: ナウレッジ株式会社の実測(2025 年度の沖縄県 ICT ビジネス高度化支援事業による実証。2025 年 8 月 27 日〜2026 年 2 月 28 日、公益財団法人沖縄県学校給食会・株式会社マルキン海産)。詳細は沖縄県の学校給食 EDI 実証レポート。受注入力 65%削減の中身
- 食品産業新聞「学校給食の商取引は依然アナログで不明瞭、学校給食関連卸三団体が国会議員と文科・農水・総務三省に改善求める」(2024 年 5 月 31 日)
- 品名のゆれの型: 商品マスタ整備のすすめ方。取引先ごとの品名のゆれをどう吸収するか